書店減少と読書離れへの対応策 ― 書店DXと地域連携による読書インフラ再構築の可能性
超党派の国会議員で構成される「活字文化議員連盟」と「学校図書館議員連盟」は合同で総会を開き、書店の減少や読書離れが進む現状に強い危機感を共有し、その対応策について意見交換が行われました。
活字文化の衰退や地域の小売書店の廃業は、特に子どもたちの語彙力や思考力を育てるうえで、少なからず影響を及ぼすおそれがあります。書店は本との出会いを通じて、知的好奇心を育む大切な場でもあり、そのような機会が減ることは、子どもたちが自ら学ぼうとする気持ちや、多様な価値観に触れる機会を失うことにもつながりかねません。
また、地域の書店は、住民同士が交流し、情報を共有する場としての役割も果たしてきました。そうした場が失われていくことで、地域コミュニティのつながりや文化の多様性が損なわれる懸念があります。さらに、書店の減少は出版流通の縮小にもつながり、全国の読者に多様な書籍が行き渡りにくくなることで、情報や価値観の画一化が進むおそれもあります。
近年では、書籍も多くの商品と同様にインターネットでの購入が主流になりつつありますが、地域の書店には、単なる「販売の場」を超えた価値があります。実際に足を運び、思いがけない本との出会いを楽しんだり、店主や地域の方々との会話から新たな気づきを得たりする経験は、オンラインにはないかけがえのないものです。こうした場の価値を見直し、守り育てていくことは、これからの読書文化のあり方を考えるうえでも大切な視点だと思っています。
こうした状況を受けて、書店や活字文化が持つ社会的・文化的な役割を改めて評価し、その価値を次の世代へとつないでいく取り組みが必要です。そのためには、文化政策や地域振興策のなかで、書店や活字文化の保全・再生をしっかりと位置づけ、地域と連携した持続的な支援を進めていくことが重要です。読書を通じた学びと交流の場が地域に根づき続けることは、教育や文化の基盤を支えるうえでも、欠かすことのできない要素です。
報道によりますと、合同総会では、『書店活性化に向けた共同提言』(読売新聞社・講談社)も示されました。この共同宣言を私も拝読いたしましたが、「書店DX化の推進」と「書店と図書館の連携強化」という2つの観点から、私なりの考えをまとめました。
書店のDX化推進:RFID導入による流通改革と経営基盤の強化
書店の経営を取り巻く環境には、返品率の高さや在庫管理の非効率性など、長年にわたり続いてきた構造的な課題があります。「共同提言」では、こうした課題を改善する手段として、RFID(ICタグ)技術の導入が注目されています。RFIDを活用することで、在庫管理の効率化や万引きの抑止、さらには返品率の削減といった効果が期待できます。
現在、出版社・取次・書店が連携してRFIDを活用し、流通全体の最適化をめざす取り組みも一部で始まっています。ただし、RFIDの導入には初期投資や維持管理コストがかかるため、中小規模の書店にとっては大きな負担となるのも事実です。
こうした提言を踏まえ、国や自治体において小売りDX関連の支援制度の整備や、業界全体での標準化の推進が必要だと考えます。また、RFIDの導入・運用を担う人材の育成も並行して進めていくことが求められます。
書店と図書館の連携強化:地域文化を育む共創の場へ
書店と図書館は、地域における「知のインフラ」として、いずれも大切な役割を果たしています。しかし、現状では十分な連携が図られているとは言えず、お互いの持つ力を活かしきれていないのが実情です。
たとえば、図書館が新刊書を地元の書店から優先的に購入することで、地域経済の活性化につながります。また、書店と図書館が協力して読書イベントや著者講演会を開催すれば、本との接点を地域に広げることができ、多くの人々にとって読書がより身近な存在となると思います。
さらに、書店と図書館が在庫情報や利用者のニーズを共有できる仕組みを整えることで、より効果的で無駄のない書籍提供が可能になります。
こうした連携によって、地域全体の読書環境がより豊かになり、文化が根づき、育っていく土壌が生まれます。文部科学省が公表している「図書館・書店等連携実践事例集」には、全国のさまざまな地域での成功例が掲載されており、具体的なヒントが得られます。
事例集では町田市内の取り組みも紹介されており、「久美堂」さんと町田市立図書館の連携により、図書館の本を書店で受け取れるサービスが導入され、書店の売上が1〜2割増加したという報告もあります。こうした実効性のある連携モデルを参考に全国の自治体でさらに広げていくことが期待します。
書店の再評価と活字文化の再生は、単に出版業界を支えるだけではありません。次代を担う子どもたちに多様な価値観や知識との出会いの場を確保することにつながります。本を通じて広がる世界との出会いは、教育の質を高め、地域に根ざした文化の基盤を築くうえでも欠かせないものです。こうした観点から、今後の政策立案や地域づくりにおいて、読書文化担う書店を単なる商業施設ではなく図書館と同様に「社会インフラ」として捉え、制度的な位置づけを検討していく必要があると考えます。
書店減少と読書離れ、危機感を共有…活字文化議連と学校図書館議連が合同総会(読売新聞オンライン)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20250424-OYT1T50184/
「書店活性化へ向けた共同提言」(読売新聞社・講談社)
https://info.yomiuri.co.jp/pressrelease/書店活性化へ向けた共同提言全文.pdf
図書館・書店等連携実践事例集(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/mext_00001.html
図書館の未来を考える(よしわら修)
https://go2senkyo.com/seijika/77206/posts/1075785